よくあるかもしれないけどないかもしれない

基本的には思ったことを書くだけのブログ

ちょっと最近のオリエンタルランドにくだをまいちゃうよ、という話。

完全な手詰まりのオリエンタルランド

オリエンタルランドは実は手詰まりであるというのは、その業績と株価推移からあまり指摘をする人はいないのであろうが、個人的に既に手詰まり状態にあると考えている。というのは、どの決断も全て遅く、そしてどの決定も長期に渡る戦略的な意思決定がなされていないからである。

根本的な改修が必要な東京ディズニーランド

http://www.olc.co.jp/news/olcgroup/20150428_04.pdf

GW前にパーク拡張の詳細を発表して話題になった。(プレスリリース)

このパーク拡張計画の基はもちろん彼らの言う所の「舞浜の価値向上」施策の一つなのであろうが、考えるに売上の向上というよりパークが既にパンクし始めていることに対する「本格的な対処策」であると考えるべきであろう。

当然キャパシティの向上は入場制限の解消につながり、逸失利益を減らす効果も出てくるのだが、近年ようやく騒がれ始めてきた「あまりに酷い混雑」による悪化したゲストのエクスペリエンスへの対処の方により効果が出てくる施策だ。今までアトラクションの改築などのパッチワークでごまかし続けてきたツケが今更にしてまわってきたということであろう。

では、いつがポイントだったのか。僕自身が雰囲気として東京ディズニーランドの異変を感じ始めたのは2004・2005年あたりのことだ。ドリームライツの成功とハロウィーンの定着、ディズニーシーの敬遠とディズニーランドの集客をブーストさせる要素が奇跡的に揃い始めて特に9ー12月期の客数が異常なことになり始めていた。今でこそ、そのシーズンの混み具合は風物詩的に語られるが、昔からのディズニーランドを知っている身としては「明らかに潮目が変わった」と感じられる瞬間であった。

そして最初に「酷いことになり始めている」と感じたのはファンタジーランドの大混雑である。思えばファンタジーランドはほとんどのアトラクションが開園当初から変わっていない一方、他テーマランドの新築・改築の影響を被っているテーマランドである。つまり、現状に全くそぐわない状態になっているのはこの文脈から明らかだ。

もともと他のテーマランドと違って*1通り道を遮る形でアトラクションが設置されているファンタジーランドは、ハニーハントの敷設によって追いやられてきたティーカップもあいまって、人の流れが滞留しやすく混雑が発生しやすい。*2そこへアテンダンスの急増により酷い状態になっていたのがファンタジーランドだった。

この潮目の変遷を「一過性」と見るか「兆候」と見るか、そこにオリエンタルランドの戦略的な判断としての分水嶺があったのは間違いない。結果は「兆候」だった。

実はハイリスク経営で事業的なリスクヘッジ策が皆無

2011年3月11日に発生した大震災で影の被災地と言われた浦安市ではあるが、ディズニーリゾートについては幸い大きな被害もなく約1ヶ月程度のクローズで再開に漕ぎつけることができた。しかし、オリエンタルランドの経営陣は「売上が全くない」という未曾有の事態に戦慄していたであろうことはまちがいなく、誰もが思いついていながら誰も対処をしていなかった経営のリスクが一挙に曝け出されてしまった。ちなみにその1ヶ月の間に東京エリアはほとんど現状に戻っていたにも拘わらず開園できていなかったのは「自粛ムード」の中での再開判断が非常に難しい状態にあったからである。当時、新聞で何度か再開日程の誤報が相次いだが、あれは誤報でもなんでもなく、オリエンタルランドが「アドバルーン」を揚げて世間の反応を窺っていたと見る方がより自然である。

つまり、経営のリスクとはこのクラスのトップラインを誇る企業のサイズに対して、事業拠点が異常に限定的であるにも拘わらず、その対策が今までずっと手付かずであることだ。以前はイクスピアリの他地域への展開等も検討していたようだが、イクスピアリ自体がそこまで好調ではない(至極当然な結果ではあるのだが、それはまた別のお話)ことに加え、ディズニーリゾートの売上をイクスピアリという業態でカバーできるわけもない(何箇所必要なのか、いい場所はイオンがいるんじゃないのかetc)のだから、検討の俎上にあった時点でお粗末な話であろう。

2011年にそのリスクに直面したにも拘わらず、結果何も検討していない----上場企業として「最低」である。おそらく震災後の単価の引き上げによる予想以上のトップラインの伸びから「やはり本業に集中すべし」という「ありがちな」判断をしているのであろうことは容易に想像ができるのだが、しかし、似たような事例が腐るほどある典型的な失策を取るダメ企業と言わざるを得ない。同様に、事業展開エリアが一拠点しかないUSJが、近年の集客向上とハリーポッターの成功にあぐらをかくことなく、積極的に海外を含めた他地域への展開を検討しているのとは対照的である。*3

では、なぜ検討していないのか。無論、オリエンタルランドには企業として新規事業を展開するほどのセンスと実力がないのは明白ではあるのだが、そこを差し引いた上で「なぜ」ということを考えてみると、先のディズニーリゾートのパンク状態によって、オリエンタルランドは新規事業の一手を打つ余裕がなくなってしまった、と見るのが自然ではないだろうか。

「どっちも」が不可能な状態

パークのパンク状態は既に喫緊の対応を必要とするほど酷い状態に陥っている・大きな経営リスクを背負っているのも明白である・・・さて、どちらを取るのが正解だろうか。実はどちらか片方だけという時点で既に失策である。なぜならどちらも明らかに急を要する重要課題であるからだ。しかし、オリエンタルランドの企業内リソースと投資へのスタンス(財務が異様に堅実というのも頭が古い会社の特徴)からするとどちらかしか取れない。しかも震災と円安による建設費の高騰からパーク改修のプロジェクトコストの負担量は指をくわえている間に上昇する一方である。*4さらに言えば、これほど重大な課題が目前にあることが明白であるにも拘わらず、これ以上何も手を打たないのは経営者として怠慢である。だからこそ、この現状は「手詰まり」なのだ。*5

では、どうするべきだったのか。オリエンタルランドに受け入れられそうな案を具体的に言えば異変が表れ始めた2004年・2005年あたりからパーク改修の検討に入り、TDSの一連の巨大投資(レイジングスピリッツ・ブラヴィッシーモ・タワーオブテラー・レジェンドオブミシカ)が落ち着いた段階で実行プランへと落とし込み、2010年〜2013年あたりの完成を目指すという形である。資金面で言えば当該時期に非常にくだらない自己株式の買付を行うほど余剰資金があったのだから工面は可能であったはずだ。*6

そして2011年に経営のリスクに直面し、再度舞浜外の事業の展開を検討→2015年には何らかの形でシードがスタートという流れが「震災」というイベントを織り込んで過去を眺めてみると綺麗なストーリーであっただろう。

上記から考えてみると、いくつものポイントでオリエンタルランドは戦略的にいつか大きな問題になりうるであろう2つの経営課題の解決策を戦略的に判断するタイミングがそこかしこに存在していたのは間違いなく、2つの課題が重大になる前に大きな負担なく解決可能な状態を作り出すことは可能であった。つまり、ようやく具体案の発表にたどり着いたパーク改修策は遅きに失した判断であると言える。これだけを以ってしてオリエンタルランドは長期に渡る戦略的な経営判断が行われていないと言うことができてしまうのではないだろうか。

VCとかやっちゃえばいいんじゃないの?

とはいえ現在から過去を見て「ここが」というのはある意味では意味があるし、ある意味では意味のない分析である。であるからして、一応、これからの施策をブレスト的に考えてみようと思う。

前提としては

  • オリエンタルランド事業構造からしてキャッシュリッチである
  • 社内リソースは限定的で、おそらく新規事業を考え・実行できる人材は存在しない
  • 数千億円規模の投資を今後行うことを発表している

まず、オリエンタルランドは基本的に売上は現金で入りながらにしてキャッシュアウトは掛けで行えるという、事業構造からしてキャッシュリッチな会社であることは明白である。(にも拘わらずこの会社は投資を全然しないのだが)一方で、今までの様々な失敗(なぜか映画に投資したことあったよね)から鑑みるに、自身で何か新しいことを始めるのは不可能と断言してよいだろう。*7また、先にあげた大規模投資があるためキャッシュアウトが見込まれている。

・・・何もできないなら外部に頼っちゃえばいいじゃなーい、ということでVCからなんか買えば?

すごく投げやりになってしまって恐縮なのだが、実際、もう外部の人間を雇うでもヴィークルごと買うでもいいから、新規事業については外部の人間を頼るということを真剣に検討するべきタイミングになってしまったことは認めるべきだ。それにキャッシュリッチであの格付けを維持している企業なのだから、リスク投資を行えないことはないのではないか。仮に大規模投資のおかげでキャッシュが、と言うのであれば、幸いにしてオリエンタルランドは財務的に健全な会社なのだから、おそらく銀行借り入れのレートも低いし、であるから社債のレートも当然のように低いし、消却したのかどうかわからない自己株式の放出だって、増資だって、あらゆる資金調達手段を視野に入れられるのだ。*8例えばドコモのような完全に成熟し、売上も高いレベルで保ててはいるが、自らの力での拡大に失敗し続けている、という会社は積極的にベンチャー投資・ベンチャー育成をしている。もしそこに良いシードがあれば取り込めばよいし、そうでなければイグジットで稼げばよい。本来的には本業とシナジーのある分野への参入をお勧めしたいところではあるが、申し訳ない、オリエンタルランドの実力では不可能である。

え?スープストック買ったじゃないかって?

ほら、投資判断も含めて外部の人間に頼った方がいいってわかったでしょ?

*1:スタージェットとチャイナボイジャー以外は基本的に建物が壁沿いに設置されていて人の流れを遮らないよう工夫されているはずだ。

*2:ファンタジーランドは子供連れが多く、それだけで滞留要因となるのに、ビッグサンダー・スプラッシュ・ホーンテッドマンションあたりからハニーハントへ向かう人々が一定数存在するため、ファンタジーランドに用がなかったとしてもかなりの数の人がファンタジーランドを訪れる。

*3:他地域への展開を含めたストーリーがあって、その上で上場というのは陳腐な言葉使いで恐縮だが非常に素晴らしいエクイティストーリーだ。

*4:さらに言えばディズニー本体へと支払う費用も円安によってバカにならないレベルで増大しているはずだ。もちろん、為替予約はしているのだろうが。

*5:ちなみに震災等の緊急時に資金を工面する仕組債を発行しているから来るべき事態に対応できているという反論も聞こえてきそうだが、所詮はその瞬間に現金が入ってくるだけで恒常的に売上が立つわけでないので、基本的に緊急時の工面でしかない策。

*6:既存株主にとっては自己株式の買付はプラスなのでくだらなくはないのだが、財務政策からするとB/Sの右側をいじくってEPSを向上させる全く本質的とは言えない見せかけの政策であると同時に、経営判断としても明確に課題を抱えているフェーズにある企業として投資に回さず買付に回すというのは愚の骨頂であり、もっと批判されてしかるべきである。

*7:いつも思うのだが、オリエンタルランドはディズニーというブランドの恩恵を受けながら真面目にパークを運営してきただけなので、何もこのトップラインを誇るからといってエクセレントカンパニーであるとは言えない。が、社内の人間は自分たちの力で稼いでいると思っていそうだから怖い。

*8:無論、財務体質が良すぎるのでここで増資をすると方々から批判を食らうことになるだろう。しかし、新規事業への投資とパークの拡大というのは立派なエクイティストーリーだ。